小倉 幸夫さん(駒ヶ根市)の“いつもの食卓に癒やしの彩りを”
自然の力で、ご飯をおいしく保温 おひつを入れて使う「わらいずみ」
天然わらの優れた保温性や通気性などに着目した先人たちの知恵から誕生した「わらいずみ」。おひつを丸ごとすっぽりと入れて使い、ご飯のおいしさを長く保ちながら保温する、円筒形にわらを編んだ品です。作り手の職人が丹念に仕上げた、このようなモノがあったら、いつもの食卓に癒やしの彩りを添えてくれそうです。
駒ヶ根市の小倉幸夫さんは今では希少な存在の、わらいずみの作り手。大相撲の土俵の俵作りでも知られる飯島町の株式会社わらむ(旧南信米俵保存会)の職人として日々わら工芸に勤しんでいます。取材した日には、内径38㎝・高さ30㎝で容量が2升(約3・6L)あるおひつ用のわらいずみを創作中。秋の収穫直後に機械乾燥した、地元産の白毛餅(しらけもち)のわらを約70㎝に切りそろえて用いていました。
自然乾燥させ、寝かせたわらと比べると硬くて編みにくいものの、鮮やかな緑色を残している点が特徴。小倉さんは一本、一本の状態を入念に調べ、腐りやカビの汚れがないきれいな箇所が表にくるように編む準備をしました。
編む方法は本体も蓋(ふた)も、わらの束で段々に螺旋(らせん)を描きながら、等間隔で束のすき間にわらを数本通し、回し締めていくイメージ。その規則的な工程を根気強く繰り返していきます。
垂直に近く立ち上げられるかが ゆがみのないフォルムを生み出すカギ
本体の底面から編み始めますが、「底を仕上げてから、立ち上げへ移る時が出来を左右する一番のポイント。垂直に近く立ち上げないと、次第に全体がゆがんでいってしまうからです」
20段以上、螺旋を重ねた本体は最上段の縁1周に飾り編みを施して完成。小倉さんは時間を惜しむかのように蓋の編みに取りかかりました。
小倉 幸夫 さん
1953年、駒ヶ根市生まれ。サラリーマン生活を終えた後、7年ほど前に南信州米俵保存会(当時)の職人に弟子入りし、わら工芸を一から勉強。現在は自宅傍らに建てた工房で創作に打ち込み、腕を磨いています。